ロシア:劇場のしおり


旧ブログ名:『サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記』■サンクト・ペテルブルクやモスクワを中心に、ロシア各都市の劇場トピックスなどをご紹介しているJIC旅行センターのブログです。
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2018年 05月 30日 ( 1 )

2018.5.21 エイフマン・バレエ「赤のジゼル」

マリヤ・アバショーワ
イーゴリ・スボーチン
オレグ・マルコフ
オレグ・ガブィシェフ

エイフマン・バレエの初期の代表作で、初演は1990年代ですが、2015年に衣替えされました。主にロシア革命前後から20世紀前半に活躍したオリガ・スペシフツェワの人生にインスパイアされて制作された作品です。

第1幕は、あるバレリーナが、バレエ教師に才能を愛でられつつも、ソヴィエト官僚(KGB)の危険な香りに惹かれ揺れ動く様と、そして政治的混乱からフランスに逃れるまでが描かれ、第2幕では、新天地パリでの充実した日々を過ごすものの、恋した男性ダンサー兼振付家は同性愛者で、報われない恋や見知らぬ土地での生活によるストレスから精神のバランスを崩すまでが描かれます。彼女の狂気の世界は、2幕後半たっぷり使って「ジゼル」の劇中劇で表現されます。

一言でいうと、類い希な才能を持つバレリーナが3人の男性に翻弄される人生を描くバレエですが、第1幕と第2幕の連結が若干悪いなあという気がしました。というより、第二幕の素晴らしさに比して、第一幕が若干イマイチで、第二幕だけ独立して上演してもよさそうだな…と思ってしまいました。
これは、振付けではなく、上演の問題だったかもしれません。具体的には、第1幕、バレエ教師のオレグ・マルコフと、官僚役のイーゴリ・スボーチンが二人ともセクシー系マッチョで被っていて、「厳しいけれどあるべき正しいバレエの世界」と「退廃」の間をさまようバレリーナの葛藤の表現があまり活きませんでした。もう少し教師役に純朴さのようなものがあれば良かったのにな、と思います。
また、エイフマンの女性ダンサーは、西欧のダンサー並に肩ががっちりしており、チュチュ姿で見える身体のラインも、マリインスキーやミハイロフスキー・バレエとは違いますし、クラシック・バレエのレッスン風景などの場面が続く第一幕は、エイフマン・バレエにとっては若干不利でした。とはいえ、チュチュ姿でクラシックとしての体裁は保ったまま、これほどダイナミックな踊りは中々お目にかかれないだろうという、新鮮さもあったのですが。主役のアバショーワにしても、クラシックでも見れないことはないのですが、第2幕、「アルルの女」の音楽に合わせて当時の「新しいバレエ」を踊る彼女を見ると、あーこっちが本領なんだな、と思ってしまいます。

第2幕はおおざっぱに、①パリでの新しいバレエへの挑戦、②ダンスホールで気を紛らせようとするが、振り払えない過去に心が蝕まれる様、③ジゼルの劇中劇、の三つのパートで出来ていますが、ハイライトは、やはりジゼルの劇中劇でしょう。
「ジゼル」第一幕の王道の舞台装置ですが、全く違う楽曲で、微妙なダイジェスト版、バレリーナが失恋したフランス人ダンサーがアルブレヒト、その恋人が従者ウィルフリードという、古典版の「ジゼル」を何度も観ているバレエファンにこそじわじわくるパラレル空間です。そして劇中劇の幕間の舞台裏で、バチルダが現れ、アルブレヒトはウィルフリードといちゃつき始め、いつの間にか狂乱の場になだれ込んだところで、バレリーナは精神病院に詰め込まれます。そして「フランチェスカ・ダ=リミニ」の音楽で(バレエファンにはクランコ「オネーギン」の手紙のパドドゥの音楽と言った方がわかりやすいでしょうか)、ジゼルとアルブレヒトのパドドゥと続き、そして突然夜明けの鐘が鳴った瞬間から、「ジゼル」本来の音楽に戻ります。ここで舞台上に一畳サイズの鏡面のパネルが6~10枚現れ(すみませんちゃんと数えてませんでした)、鏡がくるくると舞台上を動く中、ジゼルとアルブレヒトがその中に現れては消え、そして最後にジゼルが鏡の中に吸い込まれて幕、となります。あまり暗さはなく、どことなくカタルシスを感じるエンディングでした。特に根拠はなくただの印象なので、実際のスペシフツェワが精神を病んだ後復帰しているからそのようにエイフマンが制作したのか、単に私の精神状態の問題かはわかりません。

そのほか、第二幕、ジゼルが狂気に飲み込まれてから、三人の男性の幻とそれぞれ踊る場面がありますが、そのうち、舞台奥にカーテンのように架けられた黒い布から、フランス人ダンサーが首だけ出してバレリーナと踊るところが個人的には白眉でした。ほぼバレリーナのソロで、男性側に特に見せ場があるわけではないのですが、ヨハネの首を切り落として手に入れるサロメのような、あるいはサロメのように恋する男性を手に入れたいというバレリーナの願望が描かれているのか、背筋の凍る場面です。




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by jicperformingarts | 2018-05-30 07:40 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)


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