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ロシア:劇場のしおり


旧ブログ名:『サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記』■サンクト・ペテルブルクやモスクワを中心に、ロシア各都市の劇場トピックスなどをご紹介しているJIC旅行センターのブログです。
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2018.5.20 マリインスキー・バレエ「バフチサライの泉」

オレーシア・ノヴィコワ
エカテリーナ・コンダウーロワ
ダニーラ・コルスンツェフ
ヤロスラフ・プシコフ

地味に豪華なキャストでありました。
プーシキンの詩が原作のバレエです。ポーランド貴族の娘・マリアは、自分の誕生日の舞踏会の最中、クリミア・タタール軍の侵攻に遭い、家族・友人・婚約者を殺害される。そしてマリア自身は、彼女に一目惚れしたタタールの汗・ギレイに略奪されクリミアまで連れてこられた末、マリアに嫉妬したギレイ汗の第一夫人ザレマに刺されて死んでしまう、という三幕バレエです。
ロシアではどちらかというと子ども向けバレエに分類されていますが、第一幕たっぷり使って観客のポーランド側への感情移入を誘った後に、タタール侵攻で虐殺されたポーランド人の死体の山を舞台中央に作るなど、なかなかえげつない演出もあります。

第一幕は、マリアと婚約者ワツラフの初々しいやりとりから、クラコヴィアクやマズルカなどポーランドの民族舞踊が続きます。二人の青年達による剣を持った踊りなど、勇壮な貴族の踊りもふんだんに盛り込まれ、マリアの父アダム侯も威風堂々と強そうです。マリアにも、可憐で清楚だけではない、気高さを強調したヴァリエーションが宛てられています。ワツラフを踊ったプシコフは、首が長く細く、全体にかなり細身なので、登場の瞬間は大丈夫かと思いましたが、踊りになよなよしたところはなく、第一幕終盤、マリアを城外に逃がすためにタタール兵を斬っていくところも違和感ありませんでした(サポートは若干不安定でしたがまだ若いので御愛嬌)。しかし遂にギレイ汗率いるタタール兵に囲まれ、ワツラフはもはやこれまで、という表情で突撃し、あえなくギレイ汗に刺し殺されてしまいます。そしてギレイ汗はマリアを捕らえ、彼女の顔を隠していたヴェールはぎ取ります。彼女の美貌に釘付けになるギレイ汗と、しばしギレイ汗と対峙したのち絶望の表情で頭を垂れるマリア、で幕が下ります。
第二幕は、汗の帰還を祝うクリミア汗国の後宮が舞台です。ドラマとしては、ザレマが、ギレイ汗の心が既に完全にマリアに持って行かれていることを知り嘆きもだえる所までしか進展しませんので、やや冗長な幕ではありますが、しかし、寵を失ったザレマをあざ笑う第二夫人以下ハレムの女性たち、というこれまたえぐい場面もあります。笑 
後宮の女性たちが、鈴の踊りなどを披露して汗にアピールしますが、汗は完全に上の空です。そんな華やかながらどこか猥雑な後宮の広間に、マリアが引きずり出されます。純白のドレスで、故郷から唯一持ち出せた金の竪琴を抱きしめたマリアの薄幸さ・生気のなさが痛々しいです。その後、必死に汗の寵を取り戻そうとするザレマの踊りが続きますが、当然徒労に終わります。
第三・四幕は、汗に与えられた宮廷の一室で、幸せだったポーランドでの日々の幻に無理矢理浸ろうとするかのように、一人竪琴をかき鳴らし、そして踊るマリアの場面から始まります。第一幕の舞踏会でのソロをなぞる振りが何回も出てきますが、明るい庭園で、家族・友人・婚約者に祝福されて踊った第一幕とは対象的に、ここでは、暗い石造りの部屋で一人ぼっちです。ギレイ汗が乱入し、自分の愛を受け入れて欲しいと嘆願しますが、マリアは受け入れるはずもなく、汗は苦悩のまま去って行きます。そしてさらに夜が更けた頃、今度はザレマがマリアの部屋に忍び込み、ギレイ汗を拒んで欲しいと訴えます。拒むもなにも汗は憎い仇、とマリアが混乱状態のところに、ギレイ汗が先ほど訪れた際に忘れていった帽子をザレマが見つけます。(粗筋にははっきり書いてませんが、おそらくマリアが汗の寵を受けたと誤解して)嫉妬に狂ったザレマはマリヤの背中を刺し、マリアは音もなく崩れ落ちて息絶えます。
ザレマはその咎で城壁から突き落とされ処刑され、ギレイ汗の部下ヌラリは、ギレイ汗を鼓舞するために踊るが、ギレイ汗は腑抜けたまま。彼女を偲ぶために作ったバフチサライの泉のほとりで嘆いていると、マリアの幻が現れて消え(ギレイ汗の作った幻なのになお拒否されてるのがなんとも…)、幕となります。

マリア役のノヴィコワは、薄幸な少女をやらせたらマリインスキー随一ではないでしょうか。ギレイ汗への抵抗が甘かったり(パドドゥとして大人しくリフトされているので)、マリアに共感しかねるところもありましたが、男性目線で、可憐なヒロインの究極像を追求した結果がこの演出なのでしょう。ドラマとしてリアリティを追求しにくいので、現代においては多少演技しにくい役ではあると思います。

マリアが、その儚さは反則だろというかおよそ現実感がない役どころなせいもあり、第2幕・第3幕は、コンダウーロワ演じるザレマの方がむしろ主役でした。実際拍手も大きかったです。コンダウーロワは長身のク-ルビューティーですが、悪役をやるほどのどぎつさはなく、かといって守りたくなるような繊細さも今ひとつ、なので、愛する男性の心変わりに悶えて悪あがきする女性、という役どころがよく似合っています。第二幕冒頭の、権勢を誇る第一夫人ぶりから、汗の帰還を知り心をときめかせる様への変化はかわいらしかったです。その後、心ここにあらずな汗にうちのめされつつ、汗の心を取り戻すために渾身の舞いを見せて縋るところでは、長い長い手脚から繰り出されるダイナミックな跳躍から、ザレマの気性の激しさや嘆きの深さが伺えました。第4幕、愛する男性が自分の処刑を命じることへの悲しみは見せつつも、従容と処刑されるところでは、第一夫人としての品格もありました。

何度オペラグラスを覗いても、ギレイ汗がコルスンツェフという確信が持てないのですが、キャスト表にそう書いてあるということはそうなんでしょう。メイクの力恐るべしです。見せ場となるこれというソロはなく、マリヤに拒否され続けるパドドゥがある以外は、ひたすら小娘に鼻毛抜かれた演技をするだけです。とはいえ、演じる人によっては、ギレイ汗は一族郎党皆殺しにしておきながら自分を愛してくれとのたまう無神経な人にしか見えないので、愛する女性の国を滅ぼしてしまったことの悔恨を感じさせる、いい演技だったと思います。

また、「バフチサライの泉」のリハを張り切りすぎて疲れてたから前日19日の「白鳥の湖」の民族舞踊が迫力不足だったのかな~、と思う位、クライマックスのタタールの踊りは群舞の皆さん気迫がこもっていました。ギレイ汗のグレゴリー・ポポフも渾身の跳躍です。


by jicperformingarts | 2018-05-28 16:11 | 公演の感想(バレエ)
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