ロシア:劇場のしおり |
by jicperformingarts
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マリヤ・アバショーワ セルゲイ・ボロブエフ やっと全幕で観ることが出来ました。19世紀フランスの彫刻家の巨匠オーギュスト・ロダンの弟子であり恋人だったカミーユ・クローデルの物語です。 簡単な粗筋としては、生き生きと奔放にパリで彫刻を学ぶカミーユと、当時既に成功していたロダンが出会い、芸術家としても恋人としても惹かれ合う。しかしロダンには、ローズ・ブーレという長年連れ添った内縁の妻がいた。更に、芸術家としての才能の格差、作品をことごとくロダンの模倣と批評家に酷評されることにカミーユは苦しみ、ロダンとの破局後、心を病んでいくというものです。舞台上の構成としては、上記の合間合間に、精神病院で粘土を大事そうに抱えるカミーユが描かれます。 まず、ダンサーの身体が彫刻のようなので、彫刻家というテーマとバレエの相性がいいなと思いました。彫刻の制作場面も、盤上に乗ったボディ・ファンデーションのみの男女達が絡み合って密着し、石の塊のようになったところから、ロダンやカミーユに腕や脚、頭を引っ張りだされていくことで、彫像の体をなしていきます。音楽はサン=サーンスの交響曲第三番や死の舞踏で、張り詰めた音楽が、創作活動の厳しさ・エキセントリックさを盛り上げています。それまでロダンがどれだけ浮気しようと献身的に支えてきたローズが、創作活動に没頭する二人に疎外感を覚えて平常心を失っていくのも納得です。 また、第2幕では、金属棒が網のように張り巡らされたパネルが舞台奥に置かれ、ロダンやカミーユが、その金属棒で身体を支えつつ身をよじって苦悩を表現しますが、一緒にひしめきあってロダンやカミーユにつきまとう群舞の彫刻達は、まるで生きたレリーフのようです。 群舞達が演じるのは無機質な彫刻(白塗りなので、ちょっと舞踏っぽいです)だけではありません。パリの生き生きしたダンスホールや洗濯娘などの民衆もダイナミックに踊ります。ここまでの身体能力の群舞を揃えて、しかもまとまりがあるカンパニーはヨーロッパ全体で見ても稀だと思います。 若く美しく、ヌードモデルもやっちゃう奔放さ、そして大工仕事にも近い彫刻の制作に打ち込む、男勝りの才能に溢れた女性ということで、カミーユは力強くかっこいいエイフマン・バレリーナにもぴったりの役です。マリヤ・アバショーワも長身のクールビューティーで、股関節の可動域もさることながら強靱さもあります。 そんな彼女ですが、第2幕でロダンと破局し、若い男女がキャッキャウフフと盛り上がるダンスホールで、一人で2つのグラスにシャンパンを注ぐ場面での哀愁は半端ないです。哀愁だけでは済めばいいのですが、酒瓶を赤子のように抱えるところは痛々しく(史実ではロダンとの子供を中絶しています)、段々心が蝕まれている過程が描かれます。そして、黒い布が舞台上を覆ってカミーユを翻弄し、そしてその布が舞台上手に移動すると、布の裏側に控えたダンサーがレリーフのように浮き上がり、カミーユを飲み込みます。そして、打ちのめされたカミーユには精神病院患者達に手招きされ、抗いきれずに彼女達に手を引かれて、ゆるゆると上手袖に連れていかれてしまいます。丁度2週間前に彼女の「アンナ・カレーニナ」も観ましたが、観客に狂気を叩きつけるようなアンナとは違い、カミーユの狂気の世界は弱々しく儚いものでした。 ロダンは、セルゲイ・ボロブエフ。作中では、二人の出会いの場面の時点で既に42歳ということで、髪も少しグレイに染めていたナイスミドル風です。実際のロダンがどうかは知りませんが、脚フェチっぽい偏執的な芸術家像です。しかし実際は1986年生まれのダンサーなので、パとパの繋ぎまでエネルギーに満ちており、芸術家としてのカリスマ性は感じます。しかしこのエネルギーがカミーユへの愛情表現に使われることはあまりなかった気がします。カミーユは何より芸術家としての自分をインスパイアする存在、という感じで、それも芸術至上主義の残酷さではありますが。 ロダンの内縁の妻役のローズはアリーナ・ペトロフスカヤ。上背がある分、踊りは若干重そうでしたが、ロダンの理想の象徴だったカミーユに対して、地上的というか、カミーユに嫉妬してロダンにしがみつく女のねっとり感も上手く出ていました。
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| 2017-12-05 16:15
| 公演の感想(バレエ)
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