ロシア:劇場のしおり


旧ブログ名:『サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記』■サンクト・ペテルブルクやモスクワを中心に、ロシア各都市の劇場トピックスなどをご紹介しているJIC旅行センターのブログです。
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カテゴリ:公演の感想(バレエ)( 148 )

2017.4.16 マリインスキー・バレエ『フォーキン・プロ』

『ショピニアーナ』
ダリア・パヴレンコ、アナスタシア・マトヴィエンコ、ザンダー・パリッシュ
 10年振り位にパヴレンコを観ましたが、自己陶酔感にびっくりしました。年齢的なものもあってポワントも弱くなってしまいましたが、ロマンティシズム溢れるショパンの音楽を、かなりゆっくりしたテンポで、いい意味でねっとり踊ってくれました。なんというか、むわっとした熟女感があり、シルフィード達を率いる貫禄は十分です。
 ザンダー・パリッシュも、跳躍の時にフリーレッグがぐらんぐらんするのはいかがなものかと思いましたが、細心の注意がうかがえるサポートで、妖精達から歓待されるのも納得の、夢見る詩人の風情です。
 という中、マトヴィエンコは美しいものの、心を閉ざしたような機械的な踊りで残念でした。

『薔薇の精』
ワシリー・トカチェンコ、クセニア・オストレイコフスカヤ
 トカチェンコは勢い余って着地でよろめく時も数回あり、人外の魔性感はありませんでしたが、音楽の華やかさに見合うみごとなバネです。オストレイコフスカヤも、いくつになっても少女のような佇まいで眼福です。

『瀕死の白鳥』
カテリーナ・チェブィキナ
可もなく不可もなくでしょうか。肩が意外と堅かったです。

『シェヘラザード』
ヴィクトリア・テリョーシキナ、ダニラ・コルスンツェフ
 テリョーシキナのゾベイダは、一つ一つのポーズの端正さ、音に合わせてさらに身体のラインを引き絞るところ、そして絶妙な音ハメなど、この役ってダンスそのものでこんなに魅せられるものなんだな~という新鮮な驚きを与えてくれるゾベイダでした。わかりやすい恍惚の表情やクネクネ感はありませんが、宦官から鍵を奪って扉を開けるところは、これは初めての逢瀬じゃないんだろうなあ、と予感させるほど、沸き立つ気持ちが伝わってきます。そして、命を賭けるならこの程度の快楽では足りないとばかりに、金の奴隷や群舞をあおる目力もさすがです。おかげさまであおられた舞台全体が盛り上がりました。
 コルスンツェフは、ゾベイダへの愛というか崇拝に溢れており、こんな純朴な金の奴隷があっていいのだろうか、と途中まで思っていました。が、後半、愛するゾベイダに「もっと踊れるわよね?」とばかりに顔をのぞき込まれ、それに応えようとするかのように踊る姿を見ると、変に魔性の存在ぶるよりも、この人にはこういう金の奴隷の方が合っているなとしっくりきました。1992年バレエ学校卒ということは、とうに40歳を超えているわけですが、主役として舞台を盛り上げる水準のテクニックは保っている一方、体力的にはさすがにそこまで余裕はなくなっているからこそ、渾身!という感じが出ており、「そうまでしてゾベイダの期待に応えたいか~頑張れ~」と応援したい気持ちになりました。


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by jicperformingarts | 2017-04-25 19:26 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)

2017.4.15 モスクワ音楽劇場バレエ『アンナ・カレーニナ』

ヴァレリア・ムハノワ
ドミトリー・ソボレフスキー

 チューリッヒ・バレエとの共同制作で、そして来シーズンはミュンヘン・バレエでの新制作も予定されているクリスチャン・シュプックの新作です。衣装含めて洗練された演出ですが、ノイマイヤー作品の綺麗な部分(もちろんノイマイヤーはそれだけではないですが)だけを焼き直したようで、正直あまりオリジナリティを感じませんでした。振付上も、真新しい動きはなかったです。
 粗筋上、愛憎渦巻くドロドロ感がないと説得力が出ないので、『アンナ・カレーニナ』自体が洗練されたコンテンポラリー系の演出とはあまり相性良くない題材なのかもしれません。アンナとウロンスキーが不倫関係に落ちるまでもあっさりしており、直接的な性的表現の生々しさと、感情表見(葛藤とか良心の呵責とか)の薄さに違和感がつきまといます。ウロンスキーがアンナに一目惚れしてから人目もはばからずに口説くところも、猪突猛進というよりただ軽薄に見えたためか、これに引っかかったアンナがとても愚かに見えてしまい、第2幕も、自業自得だしなあ…と、アンナに同情する機会を失ってしまいました。アンナ役のムハノワもウロンスキー役のソボレフスキーも、とりあえず、ともに見目麗しくテクニックも確かです。演技は薄味でしたが、ダンサー個人の力量のせいというより演出の影響が大きかった気がします。
 ただ、アンナが自殺を選ぶところは、ありきたりな激しいソロではなく、舞台手前で崩れ落ちてドレスを握りしめて客席(虚空)を見つめるアンナと、舞台奥で踊る家族達という演出でしたが、自分が軽薄にも捨てたものに打ちのめされる感じがよく出ていて秀逸でした。

 ここまでとてもネガティブな感想になっていまいましたが、青年領主リョービンとキティ(アンナの兄嫁の妹)の描き方はとても気に入りました。シュプック版では、この二人がアンナとウロンスキーとの対比として、重要なポジションを与えられていますが、この二人の清々しい(?)愛の物語が、シュプックの抑制された演出に合っていた気がします。特に結婚式の場面は、とても美しい音楽が舞台に染み渡るような振り付けで、この日一番の喝采を浴びていました。



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by jicperformingarts | 2017-04-22 17:25 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)

2017.4.15 ミハイロフスキー・バレエ『ドン・キホーテ』

アンジェリーナ・ヴォロンツォーワ
デニス・マトヴィエンコ

 ヴォロンツォーワ、大分ふっくらしてしまっており、踊りが若干重そうでした。ふっくらしたのも元は怪我の影響とのことで、回転等のテクニックも抑え気味でした。32回転フェッテは全部シングルで最後まで腰に手を当てたというもので、最後はよろめいてしまいましたが、愛嬌でごまかした感じです。
 マトヴィエンコは黒髪になっていたので、最初誰だかわかりませんでした(笑)ノヴォシビルスク・バレエの芸術監督ですが、まだ38歳ということで、ヴァリエーションなど、要所要所では高いテクニックをしっかり魅せてくれます。そして、細かく練られた演技の方に好印象でした。
 ドゥリアードの女王はアンドレア・ラッシャコワ。身体のラインの美しい黒髪美人さんですが、きゃしゃな分、デヴェロッペでは脚がぷるぷるしていました。この点で比較すると、第3幕のグラン・パのヴァリエーション(この演出だとデヴェロッペが多用される振付です)のスヴェトラーナ・ベドネンコの強靱な脚から生まれる派手やかさとは対照的です。

 という感じで、実は主役の方々の演技に興奮することはなかったのですが、脇が充実してたのでとても楽しめた公演でした。特に、ミハイル・ヴェンシコフがエスパーダ役で気合いの入ったマント裁きや上体の反り具合で盛り上がりました。アムール役のアンナ・クリギナも、アップテンポな音楽の中で大きな踊りを見せてくれました。鼻売り娘のタチアナ・ミリツェワとマリヤ・ドミトリエンコも、踊りでも演技でも、舞台をより生き生きとしたものにしてくれました。それぞれの役に見所があるので、やっぱり『ドン・キホーテ』っていいな~と思いました。



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by jicperformingarts | 2017-04-21 20:18 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)

2017.04.13 アレクサンドリンスキー劇場『雪の女王』(エカテリンブルク国立バレエ)

ミキ・ニシグチ
アレクセイ・セリヴェルストフ
ラリサ・リューシナ

ペテルブルクで毎春開催されているバレエ・フェスティバル「ダンス・オープン」ですが、今年はバットシェバ舞踊団等に加えて、ロシア国内からエカテリンブルク国立バレエとペルミ国立バレエが招待されています。この日は、エカテリンブルク国立バレエの公演で、芸術監督のヴャチェスラフ・サモドゥーロフによる『雪の女王』でした。
『アナと雪の女王』にあやかってか、ボリショイ、マリインスキーでも『カイとゲルダの物語』のオペラがレパートリー入りしましたが、エカテリンブルクではバレエ化されました。粗筋は、より子供向けにカイとゲルダは仲良しだったが、ある冬の日にトロールが現れカイが撃退したところ、後日、雪の女王が手下のトロールを引き連れて現れカイを連れ去り、ゲルダは彼を探す旅に出て、無事連れ戻すというものです。

元マリインスキー・バレエ出身で、英国ロイヤル・バレエにも移籍して活躍したので、サモドゥーロフをご記憶の方も多いと思います。最近は、ボリショイ・バレエに「ウンディーナ」を振付けたりしていますが、私は彼の振付作品を見るのが初めてだったので、どういう作品なのかなあと期待していました。
実際に観てみると、かなりクラシック寄りで、スパイスにコンテンポラリーという感じです。崩し方は洒落ていて、目に快いムーヴメントです。温室の場面は、センスの良い振付けと、キテレツな方向にお洒落な以上とのバランスが良かったのですが、カイとゲルダが住む村の場面は謎にレトロな衣装・装置で(子供が喜びそうなテイストでもなく)、特に雪の世界とのコントラストをなしているわけでもなく、世界観の作り込みは今ひとつという印象です。

主役は、日本人でしょうか、ミキ・ニシグチさん。久々にエカテリンブルク国立劇場の公式HPをのぞいたところ、いつの間にか日本人ソリストが2~3人になっていました。アンドゥオールも割合しっかりしていますし、ボディ・コントロールも行き届いています。
カイ役のアレクセイ・セリヴェルストフは、ラストのソロは頑張っていましたが、もうちょっと派手さが欲しいところ。そして、これは演出のせいなのかもしれませんが、ゲルダを思い出すはもっとドラマ上盛り上げて欲しいところです。
雪の女王のラリサ・リューシナは、元々舞踊上の見せ場が少ないこともあり、跳躍が重そうだった印象しか残っておりません…。むしろ、アタマンシャ(盗賊の女首領)役のアナスタシア・バガエワの方が、メリハリのきいた動きで舞台を引き締めてくれた気がします。



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by jicperformingarts | 2017-04-17 22:43 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)

2017.02.26 モスクワ音楽劇場バレエ『白鳥の湖』カルダシュ&ミハリョフ

オクサーナ・カルダシュ
イワン・ミハリョフ

 オクサーナ・カルダシュが好きなので行ってみました。お気に入りのダンサーだからというのもあるのでしょうか、とても満足度が高い公演でした。

 カルダシュはふくらはぎなど筋肉はしっかりしており、ザハロワに代表される、しゅるんとした蔦のような造形美とはまた違いますが、鍛え抜かれたアスリート的な身体の曲線はそれはそれで美しいです。2幕(1幕2場)のアダージョでは、王子と目が合う寸前で目を逸らす一方(アダージョ後半では少し目が合うようになるのですが)、オディールの時は王子を凝視する対比が心憎いです。基本的にオデットもオディールも無表情気味なのですが、オディールの時は、笑みを浮かべる一歩手前で止めているような、全然違う印象の表情でした。第4幕では、演出の妙もあるのでしょうが、許しを乞う王子を無視して立ち去ろうとするが、見捨てきれずに戻ってきて絶望に支配されつつも許しを与えるところも、大げさな表情の演技はありませんでしたが、マイムの間も含め、味わい深さがありました。
 32回フェッテは後半はシングルのみなのでスーパーテクニックがあるわけではありませんが、第2幕のソロでは、左右対称にデヴェロッペも上がるし、ポーズ一つ一つでぴたりと止まれるポワントの強さもあり、全幕通じて技術面で目立った減点要素はありませんでした。

 イワン・ミハリョフは、スタイルの良いロシア系の中でもひときわ脚が長く、物腰穏やかな、おっとりお坊ちゃん王子の佇まいでした。
 濃ゆい演技というわけではありませんが、第2幕で、オデットを見つめ続けてもオデットが目を逸らし続けるのでしょんぼりしているあたりから、第3幕の「オデット(実はオディール)が自分を好きになってくれた!!」という素直な喜びに溢れた黑鳥のパ・ド・ドゥのソロ、そして第4幕でオデットに許しを乞う時もしつこく食い下がらず、ああ一応自分のやらかしたことの意味を理解してるんだな~と思わせる一連の流れから、好感度が高い王子でした(脱線しますが、この許しを乞う場面、群舞18羽+大きい白鳥3羽+小さい白鳥4羽=25羽から一斉に王子に拒否を突きつけるところは壮観です。この25羽の中心にあって、唯一明確な拒絶を示さないのがオデットです)。

 道化のサレル・アファナシエフはシベリア出身なのかな?という容姿です。東アジア系っぽいお顔の道化はちょっと新鮮です。バネのある跳躍だけでなく、回転からも若さがあふれる感じです。モスクワ音楽劇場はキャラクターダンサーが充実していますが、新たな逸材です。
 
 一方で、三羽の大きな白鳥、パ・ド・カトル(セルゲイエフ版等定番の演出ではパ・ド・トロワ)ではこれというソリストはいませんでした。しかし、パ・ド・カトルではいまいち地味だったセルゲイ・マヌイロフは、第3幕のマズルカでは、パートナーのスタニスラワ・アントワとともにぐいぐい前に進む疾走感がありよかったです。



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by jicperformingarts | 2017-03-20 18:11 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)

2017.02.25(夜) ボリショイ・バレエ『イワン雷帝』ワシーリエフ&ヴィノグラードワ

イワン・ワシーリエフ
マリア・ヴィノグラードワ
アルチョム・アフチャレンコ

 『イワン雷帝』鑑賞2回目です。作品に関する補足は前の投稿をご覧ください。この夜公演では、イワン雷帝を当たり役にしていたユーリー・ウラジーミロフ75歳の誕生日を記念して彼が招待されており、芸術監督のワージエフからの祝辞・花束贈呈があり、その後彼の現役時代の映像をスクリーンに流してからの公演開始となりました。

 夜公演の主役はイワン・ワシーリエフ。彼なので、跳んで魅せるところでは当然観客は沸きます。演技も迫力がないわけではないのですが、全球全力フルスイングで同じ打線というか、雷帝の狂気の変遷という点では物足りないところもありました。彼の細君のヴィノグラードワがアナスタシア役ということで、きっと昼公演では観られなかった相思相愛ぶりが観られるはず!と手ぐすねを引いて待っていたのですが、今度は、観客から観た愛情表現の度合いが、アナスタシア>>>雷帝で不均衡でした。難しいですねー・・・。
 といっても完全に演技が単調だったわけではなく、二幕冒頭のパ・ド・ドゥでは、アナスタシア懐妊中なのかな?と思わせる(史実でも子供がいます)演技、そしてアナスタシアの仇を討った後、彼は本当はもう死んでもいいんだろうなー、と思わせる狂気の笑みなど、良い所もありました。
 また、体格に恵まれたダンサーというわけではないので、階段2段飛ばしの振りや、ラストの縄を絡ませる所、そしてリフトに余裕がなく、この作品の世界観の完成度に影響を与えている部分はありました。

 ヴィノグラードワは長身で現代的なモデル風というか、美人なのですが中世ロシアの姫君としては違和感がある容姿なので、雷帝が見初めるところでは、一瞬「え?意外な好み…」となったのですが、戦争からの夫の無事の帰還を祈るソロでは、伸ばした腕の先・目線の先には、ちゃんと雷帝がイメージされていたような気がします。そして重病の雷帝を看病するところでは悲痛さも伝わってきます。また、彼女は股関節がきれいに開くので跳躍に鮮やかさがあり、その後、雷帝の帰還がした後の踊りには、演技・技術と相まって素敵な晴れやかさがありました。
 ただ、やはり清純さという点では今ひとつなので、第2幕の、霊となって雷帝と踊るところでは浮遊感はありませんでした。

 クルプスキー公は夜公演もアルチョム・オフチャレンコ。昼公演は第4ヤールス(実質6階)、夜公演は第1ヤールス(実質3階)で観ていたためか、夜公演ではアフチャレンコの跳躍を観て、エレガントに高く跳ぶなあと実感しました。ただ、より近い目線で観ても演技の淡泊さは変わりませんでした。

 その他、鐘つき男達・勝利の使い達・オプリーチニキ(いわゆる雷帝の秘密警察)などのキャストもほぼ昼公演と同じでした。この作品、筋金入りのボリショイ・ファンでない限り、主要3人以外はほぼ個体識別できません。3人の心理を丹念に描くドラマと捉えればいいのでしょうが、キーマンであるクルプスキー公が薄味だったので、ドラマとしての濃密さが足りず、舞踊的なバランスの方が気になり、主要3人とそれ以外を埋める役が欲しいなあと思ってしまいました。
 あとは、映画『イワン雷帝』のためにプロコフィエフが作曲した音楽が基になっており、オリジナル音楽ではないので仕方ないことではあるのですが、甘ったるい場面では、もっと『ロミオとジュリエット』級に甘ったるい音楽が良かったです。とはいえ、一からバレエ化された作品としては、演出含めかなり緻密に作り込まれていて見応えがあります。


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by jicperformingarts | 2017-03-09 19:02 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)

2017.02.25(昼) ボリショイ・バレエ『イワン雷帝』ラントラートフ&スミルノワ

ウラディスラフ・ラントラートフ
オリガ・スミルノワ
アルチョム・オフチャレンコ

 ソ連バレエを代表する振付家のグリゴローヴィチによるオリジナル・バレエです。16世紀ロシアで専制的な政治を打ち立てたイワン雷帝を主役にした作品です。歴史的事実をなぞってはいますが、時系列に彼の生涯を追うというより、雷帝の心が闇・狂気にとりつかれていく前半生に焦点が当てられています。
 かなりざっくり説明すると、第一幕が、即位→最初にして最愛の妻アナスタシアとの出会い(二人が結ばれるまでには何も波瀾万丈なく、気づいたら結婚しています)→戦争→病で死にかける→その隙に王座を奪おうとした貴族を粛清。第二幕は、幸せな二人の踊り→アナスタシアの毒殺→毒殺を企てた貴族達の処刑→味方のいない孤独な王座で苦しむ、という感じです。

 鬱バレエの呼び声高いこの作品を敬遠していたため、往年のスター達の名演も知らず、何の先入観もなく観ましたが、ラントラートフは熱演していました。アナスタシアと踊っているところのデレっぷりをしっかり見せてくれたので(役柄の性質上ツンしかないと思っていたので驚きました。)、彼女の死を嘆くところ、そして彼女という心のオアシスを失って、心が病んでいく過程に説得力がありました。もちろん、戦争の場面では、『スパルタクス』を彷彿とさせる力強い跳躍も見せ、君主としての風格も見せてくれました。
 第一幕・第二幕とも、身体全体を使った上での超顔芸で狂気を表現して終わりますが、第一幕の、臣下に裏切られ専制君主のプライドを傷つけられたことによる、ある意味純粋な苛烈さと、第二幕の他者を呪うような影のある表情と、違いが良く出ていました。
 なんとなくまだ若手のつもりで彼を観ていましたが、2006年バレエ学校卒ということで、既にプロ11年目。中堅への階段を順調に昇っているということでしょうか。

 というラントラートフの熱愛の相手としては、スミルノワはちょっと淡泊すぎるかなあと思いました。他の花嫁候補と並んで踊るところでは、神秘的というか他の花嫁とは一線を画す存在感があり、雷帝が一目惚れするのも納得なのですが、戦争に行った夫を心配する→無事雷帝が帰還して歓喜→病で瀕死の雷帝の身を案じて嘆く、という起伏に演技がついていっていないというか、雷帝への愛をあまり感じませんでした。
 印象的な大きい瞳をしたダンサーですが、顔のパーツの配置が微妙にアンバランスなので(すみません)、第二幕で、アナスタシアの幻とイワン雷帝のパ・ド・ドゥでは、スミルノワの顔がイコンのように見えてきてしまい、「そうかー、雷帝がいくら救いを求めても御利益はなかったかー」と思考が脱線してしまいました。そして、眼の存在感がありすぎて、意外にも精霊らしさがありませんでした。 

 ドラマ上、非常に重要な役なのがクルプスキー公です。大貴族にして雷帝の友人でしたが、密かに愛していたアナスタシアを雷帝に奪われたことから彼を憎み(実際は王位簒奪の野望もあったようですが)、彼を暗殺する陰謀に加わり、流れでアナスタシアを毒殺してしまいます。このあたりの設定は参照する資料により変わりますが、私には、陰謀仲間の貴族達がアナスタシアを毒殺するのを止められなかった、というように見えました。
 死にゆくアナスタシアとの長いパ・ド・ドゥなど、重要そうなパートも多く与えられています…が、オフチャレンコの演技からは、嫉妬・悔恨・慟哭といった感情のほとばしりが観られず残念です。彼の高いテクニックと貴族らしい品格は得がたい資質だと思うのですが、もうちょっとはっちゃけて欲しいです。


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by jicperformingarts | 2017-03-02 20:22 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)

2017.01.02 マリインスキー・バレエ『くるみ割り人形』

アナスタシア・ルーキナ
エルネスト・ラティポフ

13:00~の『雪娘』を観た後、大急ぎでマリインスキー劇場へ移動して14:00~のマリインスキー・バレエの『くるみ割り人形』、ということで、この公演は2幕から観ました。

 2014年にワガノワ・バレエ・アカデミーの公演でルーキナを観ていましたが、マリインスキーの団員としては今日がマーシャデビューだったようです。音に合わせて、伸びやかさや上体の美しさを見せるところはまだまだこれから…という感じではありましたが、容姿・体型・テクニック・華にバランス良く恵まれた若手なので、相性のいい先生に出会えれば化けるかもなあと思いました。

 ラティポフは、爽やかな容姿と踊りが魅力的な期待の若手です。さすがにソロは見事でしたが、一回リフトでミスがあったのと、回転のサポートも少々残念な出来でした。今回の旅行では、こういう系統のダンサーに遭遇する率が高かったです。

 12月31日と被っているキャストも多いですが、印象に残った方を、以下、つらつら上げていきます。雪の精はエカテリーナ・イワンニコワとニカ・ツィフヴィタリヤ。ツィフヴィタリヤ、初めてみましたが、跳躍が伸びやかで素敵です。アラビアの踊りは、31日同様、エレーナ・バジェノワでしたが、音に合わせるというより音が吸い込まれていくような貫禄がありました。トレパックも、31日同じ配役で、アリサ・ボヤルコ、アレクサンドラ・デメンチエワ、フョードル・ムラショフでしたが、ムラショフは、ジャンプの時はとても気合い入っていました(ジャンプ以外は若干流している感が…)。花のワルツでは、ヴィクトリア・クラスノクツカヤが目立っていました。



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by jicperformingarts | 2017-01-11 04:59 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)

2017.1.2 シネマ=コンサート・ホール"コロシアム"『雪娘』

雪娘:オレーシア・ガピエンコ
クパーワ:エフゲーニア・シュタネワ
レーリ:デニス・アリエフ
ミズギリ:アンドレイ・カスヤーネンコ
春の精:イリーナ・コシェレワ(キャスト表上はエフゲーニア・シュタネワ)
霜の精:ゲルマン・シュナイダー
レーシィ:アルチョム・ヤコヴレフ

 なぜ二回公演なのにトリプルキャストが組まれてるんだろう…、とか、キャスト表と違う人が踊ってるよ…?とか、懐かしのロシアの劇場の香り漂う運営でしたが、出演者のレベルは高かったです。
プログラムによると、ペテルブルクのコンセルヴァトーリヤの学生のエフゲーニヤ・ベルヂチェスカヤ(バレエ・フェスティバルにも参加して入賞しているようです)がリムスキー=コルサコフの『雪娘』をバレエ化したそうです。
 バレエ公演ではあるのですが、レーシイ(森の精)を、サンクト・ペテルブルクのテアトル・ブッフのアルチョム・ヤコブレフが演じたり、民衆には民族舞踊アンサンブルを起用したり(こちらはキャスト表には明記されてないので確実ではないですが…)と、バレエ・ダンサーで出演者を固めることはしていません。映画館とコンサートホールが一体になった会場を使っていたのですがステージが狭く、また65分の子供向けの作品ということで、時間的にも空間的にも、そしておそらく予算的にも制限が多い演出でしたが、奇をてらわず、御伽話バレエらしい振付けで、子供と彼らに同伴の親の期待には応えていたように思います。

 オレーシア・ガピエンコは、色白でお人形さんのような顔をしており、ビジュアル的にはまさに雪娘です。しっかりプロの踊りだったので調べてみたところ、タシケントの舞踊学校を卒業した後、サンクト・ペテルブルクのコンセルヴァトーリヤで踊っているようです。
 エフゲーニア・シュタネワは、ざっとネットで調べても現在の所属がわからなかったのですが、エイフマン・バレエのオレグ・ガヴィシェフとも共演しているようです。民族舞踊的な力強いステップで、雪娘と対極にある地上の娘を表現していました。
 イリーナ・コシェレワはミハイロフスキー劇場のソリストとして何度も来日しているので、ご存じの方も多いと思います。雪娘の母役で派手な動きはありませんでしたが、柔らかな腕の動き、ゆったりとしたデヴェロッペに母性を感じました。
 クパーヴァと婚約しておきながら、雪娘に一目惚れしてクパーヴァを捨てたミズギリ役は、こちらもミハイロフスキー劇場のアアンドレイ・カスヤーネンコ。舞台が狭いので、クラシック・バレエの大きな跳躍はプレパラシオンからして窮屈そうでしたが、コサック風の踊りではのびのび踊っていた気がします。
 レーリは、元ヤコブソン・バレエで現在はミハイロフスキーのデニス・アリエフ。原作オペラと違って爽やか好青年風に描かれているので、このままレーリが雪娘とくっつけばいいのにと思いましたが、婚約破棄後、レーリとまとまったクパーヴァはそれはそれで幸せそうでした。



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by jicperformingarts | 2017-01-06 19:10 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)

2016.12.31 マリインスキー・バレエ『くるみ割り人形』

オレーシア・ノーヴィコワ
ウラジーミル・シクリャローフ

 大晦日のバレエ公演ということで、第3幕は、指揮者・オーケストラが、サンタ帽を被って登場し、客席も盛り上がりました(ロシアのクリスマスは1月7日なのでこれからです)。同じワイノーネン版ということで、衣装・装置は、ワガノワ・バレエ・アカデミーと同じです。

 久しぶりにノーヴィコワを観ました。三児の母になって苦労しているのか、すみません、お顔は老けたなあと思ってしまいましたが、引き上がった上体と、軽やかに音を摘んでいくような踊りは健在です。金平糖の精の踊りは、音楽と彼女の個性がピッタリ合うので絶品でしたし、それ以外の、雪の場の前のパ・ド・ドゥや第3幕のアダージョでも、ポーズの一つ一つがぴしっと決まるので爽快です。
 演技面について言えば、くるみ割り人形が壊されて泣くところも、顔全体でなく口元を手で覆うなど、あまり少女らしからぬところはありました。一方で、ドロッセルマイヤーがくるみ割り人形を差し出した時も、最初は「え、かわいくない、要らない」と断ったものの、他の誰も欲しがらないないので、可哀想になって引き取る、でもその後くるみ割り人形と一緒に踊るうちに段々情が沸いてくる…という細やかな演技も見せてくれました。
 シクリャローフは、2015年の来日公演で負傷したと聞きましたが、怪我以前と変わらない水準まで戻してきたのはさすがですし、相当鍛錬したんだろうなあと思います。…サポートが微妙なところも相変わらずなのは残念でしたが…。
 第2幕(1幕2場とする演出も多いですが)、ネズミ退治から雪の場へ移行するところで、雰囲気はもう一気にロミオとジュリエットです。正直、「あ、甘ったるい…」と思いましたが、誰にでも作り出せる雰囲気ではないので、この二人の面目躍如と言っていいかと思います。

 くるみ割り人形とフランツ(フリッツ)を、女性のアンナ・ラブリネンコが踊りました。不思議に色っぽいくるみ割人形でした…(笑)
 ハレーキンはマクシム・イズメスチエフ、コロンビーヌはソフィア・イワノワ=スコルブニコワ、ムーア人はエフゲニー・コノヴァロフ。この役に求められるものは過不足なく見せてくれましたが、特に強い印象もなく…でしょうか。
 雪の精のソリストはタチアナ・トカチェンコとエカテリーナ・イワンニコワ。トカチェンコ、若いイワンニコワにはまだまだ負けない大きな跳躍がたくましいです。
 クラシック・トリオは、スヴェトラーナ・イワノワ、ヤナ・セリナ、ダヴィド・ザレーエフ。ザレーエフは昔カザンの「ドン・キホーテ」で観た伊達男の印象が強いのですが、この役では、温厚そうな微笑みの貴公子ぶりでした。イワノワもセリナもロココ風の衣装・かつらがよくお似合いで眼福です。また、スペインのオリガ・ベーリクの、軽やかに華やかなスペインも良かったです。



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by jicperformingarts | 2017-01-04 20:01 | 公演の感想(バレエ) | Comments(0)


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ボリショイ・ザール(*マールイ・ザールと共通)

■その他(編集中)
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