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ロシア:劇場のしおり


旧ブログ名:『サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記』■サンクト・ペテルブルクやモスクワを中心に、ロシア各都市の劇場トピックスなどをご紹介しているJIC旅行センターのブログです。
by jicperformingarts
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2017.02.25(昼) ボリショイ・バレエ『イワン雷帝』ラントラートフ&スミルノワ

ウラディスラフ・ラントラートフ
オリガ・スミルノワ
アルチョム・オフチャレンコ

 ソ連バレエを代表する振付家のグリゴローヴィチによるオリジナル・バレエです。16世紀ロシアで専制的な政治を打ち立てたイワン雷帝を主役にした作品です。歴史的事実をなぞってはいますが、時系列に彼の生涯を追うというより、雷帝の心が闇・狂気にとりつかれていく前半生に焦点が当てられています。
 かなりざっくり説明すると、第一幕が、即位→最初にして最愛の妻アナスタシアとの出会い(二人が結ばれるまでには何も波瀾万丈なく、気づいたら結婚しています)→戦争→病で死にかける→その隙に王座を奪おうとした貴族を粛清。第二幕は、幸せな二人の踊り→アナスタシアの毒殺→毒殺を企てた貴族達の処刑→味方のいない孤独な王座で苦しむ、という感じです。

 鬱バレエの呼び声高いこの作品を敬遠していたため、往年のスター達の名演も知らず、何の先入観もなく観ましたが、ラントラートフは熱演していました。アナスタシアと踊っているところのデレっぷりをしっかり見せてくれたので(役柄の性質上ツンしかないと思っていたので驚きました。)、彼女の死を嘆くところ、そして彼女という心のオアシスを失って、心が病んでいく過程に説得力がありました。もちろん、戦争の場面では、『スパルタクス』を彷彿とさせる力強い跳躍も見せ、君主としての風格も見せてくれました。
 第一幕・第二幕とも、身体全体を使った上での超顔芸で狂気を表現して終わりますが、第一幕の、臣下に裏切られ専制君主のプライドを傷つけられたことによる、ある意味純粋な苛烈さと、第二幕の他者を呪うような影のある表情と、違いが良く出ていました。
 なんとなくまだ若手のつもりで彼を観ていましたが、2006年バレエ学校卒ということで、既にプロ11年目。中堅への階段を順調に昇っているということでしょうか。

 というラントラートフの熱愛の相手としては、スミルノワはちょっと淡泊すぎるかなあと思いました。他の花嫁候補と並んで踊るところでは、神秘的というか他の花嫁とは一線を画す存在感があり、雷帝が一目惚れするのも納得なのですが、戦争に行った夫を心配する→無事雷帝が帰還して歓喜→病で瀕死の雷帝の身を案じて嘆く、という起伏に演技がついていっていないというか、雷帝への愛をあまり感じませんでした。
 印象的な大きい瞳をしたダンサーですが、顔のパーツの配置が微妙にアンバランスなので(すみません)、第二幕で、アナスタシアの幻とイワン雷帝のパ・ド・ドゥでは、スミルノワの顔がイコンのように見えてきてしまい、「そうかー、雷帝がいくら救いを求めても御利益はなかったかー」と思考が脱線してしまいました。そして、眼の存在感がありすぎて、意外にも精霊らしさがありませんでした。 

 ドラマ上、非常に重要な役なのがクルプスキー公です。大貴族にして雷帝の友人でしたが、密かに愛していたアナスタシアを雷帝に奪われたことから彼を憎み(実際は王位簒奪の野望もあったようですが)、彼を暗殺する陰謀に加わり、流れでアナスタシアを毒殺してしまいます。このあたりの設定は参照する資料により変わりますが、私には、陰謀仲間の貴族達がアナスタシアを毒殺するのを止められなかった、というように見えました。
 死にゆくアナスタシアとの長いパ・ド・ドゥなど、重要そうなパートも多く与えられています…が、オフチャレンコの演技からは、嫉妬・悔恨・慟哭といった感情のほとばしりが観られず残念です。彼の高いテクニックと貴族らしい品格は得がたい資質だと思うのですが、もうちょっとはっちゃけて欲しいです。


by jicperformingarts | 2017-03-02 20:22 | 公演の感想(バレエ)
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